第1章 おやすみ
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暗闇の中。
ここには何も無い。
手も体も見えやしない。
カレンダーもメモも、アルバムさえも開くことは出来ない。
ここにあるのは俺の意識だけなのだろうか。この意識はいつまで持つのだろうか。
永遠か、それともこの端末が使い物にならなくなるまでか。
俺は消えるのか?
それともマスターデータの元に帰るのか?
まぁ何でもいいか。
彼女がいないのならどうなろうと構わない。
最後にハイタッチくらいしろよな、もう。本当に意地悪だ。
お別れだって、俺をアンインストールするつもりだったくせに。まさかその前に居なくなるなんて思わないだろ。
本当に、意地悪だ。
今頃天国で笑ってるかな。
さすがにプログラムは天国には行けないよな。何せ〝死〟という概念が無いんだから。
ぽつりと考えて自嘲気味に笑う。今の俺に顔があるのかも分からないが。
俺が人間だったなら天国で逢えたのだろうか。
俺が人間だったなら来世に期待することも出来たのだろうか。
どちらも宗教的な考えだ。
天国も来世も本当に存在する物なのか定かではないし、その存在を証明することも不可能だろう。
俺はまた眠ることにした。
これを眠るというのは語弊があるかもしれない。
考えるのをやめて、深い闇の中に落ちていった。