第2章 おはよう
私達は互いの過去を確かめ合った。名前、出逢った時のこと、一緒に出かけて写真を撮ったこと。想いを伝えあったこと。
それから、連絡先を交換した。
以前の私達からしたらありえない行為だろう。だって彼は私の携帯端末の中にいたんだから。
「なんか、夢みたいだ……ずっとずっと、思い描いてたから……」
「でこぴんする?」
「それは嫌……でも、されてもいいや……。今ならなんだって気持ちいいって思うかも」
セイは照れたように視線を彷徨わせてから微笑んだ。
「ふふ、可愛い」
「またそういうこと言う……この姿になって最初の感想がそれって!」
「セイは、実体があろうがなかろうが、私の可愛いセイだよ。優しくて頼りになる、大好きなセイ」
私がくすくすと笑うとセイは溜息を零した。
「本当、ゆうには適わないな。──俺も、大好き」
セイは私の頬に触れて幸せそうに目を細める。
壊れ物に触れるように、肌の感触を確かめるように滑るセイの指先。こんな日が来るなんて思いもしなかった。
彼の手に触れて、存在を確かめる。
「離れがたくなっちゃったな」
「でも、行かないとでしょ?お仕事」
「そうだな……終わったら、会えるか?」
頷いて答えるとセイはまだ興奮冷めやらぬ様子で私の手を握った。
「どこに住んでるとか何してるとか彼氏いるのとか家族はとか、とにかくいろいろ聞きたいけど……今は我慢する。だから、待ってて」
瞳を揺らしながら懇願するセイ。
待ってるよ。また、たくさんお話しよう。
波の音がなんだか遠くに聞こえる。それほどまでにセイとの再会が、嬉しさが、感動が、私を埋めつくしていたのだろう。
背伸びしてセイの頭を撫でて今度こそ体を離すと、セイは名残惜しそうに眉を下げた。
そんな顔されたら困っちゃうよ。
今この世界に生きる私と、セイ。私達はそれぞれ違う生活を送ってきた。顔を合わせれば二人きりの世界だったあの頃と違って、互いに大事なものがある。
不思議とそのことに対しては寂しさを感じない。
それよりも、嬉しかった。
彼がここにいるのは、彼を作り、育ててくれた人がいるからだろう。セイが自分の足で歩き、感じ、暮らしている。
人に支えられながら、また一人の人間として、同じように。
それは、いつだか私が望んだことだった。