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おやすみ、おはよう【makes】

第1章 おやすみ



「私、結崎ゆうです」

突然の自己紹介におお、と声を上げて振り返ったけれど、相変わらず顔は隠したままだった。
それなら俺も名乗るべきだろうと口を開く。

「俺はセイだ」

彼女は顔を上げてきょとんとした表情で俺を見つめた。そんな仕種もやっぱり可愛くて笑みが零れる。

「セイ?苗字は?」
「ないよ。俺人間じゃないからな」
「え?アンドロイドなの?」

そう、俺はアンドロイドだ。
元々あったデータを主軸にプログラムを組み直し、復元された。そして人に限りなく近いと云われるボディをもらった。

俺の元データは大昔の2Dのキャラクターだったらしい。ある時店長に端末を拾われたのが全ての始まりだ。拾われた当時のことは全く覚えていないけれど。

俺は店長と職場の開発者の手によってここに生まれたんだ。

「凄いね。お店でアンドロイドが働いてるのはよく見るけど……電車に乗って通勤して人助けするアンドロイドは初めて見たよ」
「結崎さんが気づいてないだけじゃ?」
「えっ!そうなの?」
「俺のことも人間だと思ってたみたいだし?」
「……意地悪だ」

からかうように口角を上げてみせれば、興味津々で俺を見ていた瞳はまた伏せられ腕の中に消えた。
やっぱり子供っぽいな、この人。でも、可愛い人だ。

風に揺れる彼女の髪をぼんやりと眺める。ふわふわしていて柔らかそうだ。触れたいな、と思う。

俺の視線に気がついたのか、彼女は僅かに頭を揺らし隙間から俺を覗き見た。

「どうした?」
「セイさん」
「呼び捨てでいいよ」
「じゃあ、セイ?」

なんだ、と首を傾けると彼女は恥ずかしそうに言い淀んでから俺を見上げた。

「触ってもいい?」
「なんだ、そんなこと?いいけど」

彼女は恐る恐る俺の頭に手を乗せる。よりにもよって頭なのか。肌とかじゃなく。
俺が笑うと彼女も微かに口元を緩め、頭に乗せた手をよしよしと動かした。
やっぱりそうやって撫でるんだな。

「また子供扱いか?」
「え?また、って?」
「あ、あれ、ごめん。なんか変なこと言ったな」
「ふふ。アンドロイドも間違えることあるんだね」

なんだ?やっぱりって。またって。
俺、誰かとこんなやり取りした、か?


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