第1章 おやすみ
その後、時々立ち止まり休憩しながらゆっくりと海浜公園に移動した。
途中で年齢を聞いてみたら意外にも成人していた。俺は人知れず安堵の息を吐いた。
万が一俺が何かやらかしても逮捕されることはないけれど、起動出来ない体になるか初期化されることは必至だ。
なによりまず店長が責任を取る事になる。店長は恩人だ。そんな迷惑はかけたくなかった。
歩道を歩くとやがて手頃なベンチを見つけた。海がすぐそこに見える。人も少ないしここなら落ち着けるだろう。
俺達はベンチに腰かけ、ほっと息をついた。
「漸く休めるな」
「見ず知らずの人に、ここまでして頂いて……なんとお礼を言ったらいいか」
「堅っ!いいって。敬語もいらない。俺もいつの間にか敬語取れてるし」
「でも……わかり、ました。ありがとう」
じいっと見つめたら観念した様子で彼女は頷いた。まだ顔色は良くない。冷や汗の滲む彼女の額に触れる。
冷たいな。熱は無い。
鞄からハンカチを出して彼女の汗を拭った。目を丸くして固まる彼女はなんだか小動物のようだった。
──ん?
ふと、既視感のようなものを覚える。
なんだ?こんなこと今まで一度も無かったぞ。
不思議な感覚に首を捻る。しかし、考えても過去に該当するデータは見つからなかった。
俺が手を下ろすと彼女は目をそらしてまた水を一口飲んだ。
それからやはり体調が思わしくないのかベンチの背もたれに両腕を重ねておき、そこに顔を埋めて目を閉じた。
「俺の鞄、枕にして横になって」
俺はベンチの端により、鞄を横に置いた。鞄を叩いて示すが彼女は顔を埋めたまま、ふるふると首を横に振った。
まぁ、警戒されない方がおかしいか。無理強いするもんでもない。
俺は黙って澄んだ青空と海の向こうを眺めた。