第1章 仄暗い奈落の底から -sequel -
怒ったときの智は、いつも穏やかな口調なのに、切れるように鋭く喋る。
まるで、誰か乗り移ったみたいに。
それがすごく怖い。
だから、俺達は昔から智を怒らせないようにしてた。
でも、間違ったことでは怒らないから…
そして、自分のためだけには決して怒らない。
みんな智のこと、一目置いてる。
そんな智だから、俺は…惚れたんだと思う。
「翔くんがなんで俺たちを避けてるのか…聞いてるんだろ?」
「…それは…」
「言えよっ…潤っ…」
智がいきなり立ち上がって、テーブルが少し浮いた。
ガタンっと大きな音を立てて、乗ってるものが揺れた。
それでも智は気にしないで、潤の肩を掴んだ。
「ちょっ…智っ…」
止めようとした手を抑えられた。
「和也も…俺も…」
じっと潤の目を見た。
「とても、大事なことなんだ。潤、俺たちは翔くんが…」
その時、個室の外から声が聞こえた。
「やー!ごめんごめん!待った…って、あれ…?どしたの?」
「…なんでもない…ね?智…」
智が…とんでもないことを口走りそうだった。
だから、俺はこの話を切り上げた。
だってそれは…いくら俺たちのことを受け入れてくれてるであろう潤や雅紀にも……
到底受け入れてもらえないものだろうから。
「ビールでいい?」
立ったままの智と雅紀を強引に座らせると、店員さんを呼んだ。