第22章 diable aux cheveux d'argent
渡海の小さな舌打ちが聞こえた。
その瞬間、天城の唇に温かい何かが触れていった。
「…な…に…?」
驚いて開いた目の前には、自分と同じだが少し違う顔がいた。
「また、来るから。今、俺の患者でほっとけないのがいるから、それをどうにかしたらまた来るから」
ぎゅっと天城の手を握ると、足早に渡海は病室から出ていった。
その後、看護師が慌てて飛び込んで来たが、天城は暗闇の中に意識が落ち込んで行ってその先は覚えてはいない。
遠くなる意識の中で、唇の感触がいつまで経っても消えることはなかった──
それから数カ月後、本当に渡海は天城の元に現れた。
もう天城は逃げることはできず、自分たちの生家を二人で訪れた。
天城は今度こそ、渡海に真実を告げることになる。
「そっか…」
渡海がどう思ったかは、天城にはわからなかった。
窓辺に肩を並べて座ったまま、口元に手を当て微動だにせず前を向いている。
自分と同じポーカーフェイスを操る弟を、天城は少し持て余した。
「…新しくできる病院」
「え?」
突然渡海の口から出てきた単語は、予想もしていないものだった。
「アンタ、あれをどうするつもりだったんだよ」
「さあね…」
曖昧に笑ってみせたけど、自分みたいな思いをする人を自分の手で救いたかった。