第22章 diable aux cheveux d'argent
「…まさか、おまえが…?」
酸素マスクで籠もる声は、切羽詰まったものがあった。
あの家で倒れたことは覚えている。
胸に感じる痛みから、てっきり佐伯が手術を施したものと思っていた。
しかし弟である渡海がここにいるという事実に、天城はまた震えた。
「何か、都合でも悪いのかよ」
渡海は背を向けて、点滴の輸液ポンプを確認している。
「ダイレクト、アナスト…モーシスを…?」
「……いいや?」
振り返ると首を横に振った。
「…やれなくて、悪かったな。それをやったのは佐伯教授とエルカノだ。俺は僧帽弁形成術を佐伯式で…」
渡海の冷たい手が、また天城の頬を包んだ。
「アレ、最初に送ってきたのアンタだろ?」
ふと天城の緊張が緩んだ。
そうだ、あれが渡海の手に無事に届いたんだ。
だからここにいるんだろう。
「ふ…」
笑う天城を見て、渡海が苦笑いした。
「こうなることを見越してたんだろ?」
渡海の勤務先に、自分の血液検査結果と心臓の3D画像を送ったのは、天城だった。
自身の見立てでは、もう先は長くないことがわかっていた。
それならば、最後のあがきはせめて弟の手でと思った。
幼い頃に別れた兄弟に、憐憫の情を抱くような男なのか。
そして渡海の心臓には、天城の血管が今でも息づいているはずだ。
そのことを果たして、知っているのか。
天城にはわからなかった。
だから渡海が日本に来ることに賭けるのは、勝ち目のほとんどないギャンブルだった。