第20章 こちらアラシノ引越センターの…②
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「ふふ…」
「なに笑ってんの?やらしい」
あの頃のこと思い出してたら、背後から声が聞こえた。
「やらしいってなんだよ」
午後8時のオフィス。
もう事務方は全員帰して、残るは現場のひと班。
作業が終わっていないから、潤とふたりで支社を開けて待っていた。
「にやにやしてるからやらしい顔してるって言ってんの」
コーヒーを俺のデスクに置くと、潤はニタリと笑って俺の肩に手を置いた。
「ありがと」
コーヒー片手にぺちぺちと顔を触ってみたけど、そんなやらしい顔とは思えなかった。
ずずっとコーヒーを啜ると、身体に染み渡った。
「ああ…今日ねれねえかも…」
「明日休みだからいいだろ?」
無責任に笑う潤も俺の横に立ったまま、コーヒーを啜った。
それからまた、俺の顔を見てにたりと笑う。
「またやらしい顔してる」
今日はやらしい顔って誂うのが流行してんのか?
「俺の顔がやらしいって思うのは、世界でおまえだけだって」
「え?」
ぽかんとしてる潤のネクタイを引っ張った。
「わわっ…こぼれるだろっ…」
「キス、しろよ」
「…おまえねえ」
「早く」
そう言うと、潤は嬉しそうに笑みを浮かべて軽く唇を合わせる。
「俺んトコの奥さんは職場で盛るような人だっけ?」
「生理なんですぅ」
ぶりぶりっと顎に手を遣ってくねくねしてみたら、ドン引きされた。
「そんなに引くなよ!」