第5章 約束
「ねえ、いつかさ…他に好きな人ができたらどうする?」
「あ?何バカなこと言ってんだ?」
向かいに座る智は、顔を上げて呆れた顔で俺を見た。
チッと舌打ちすると、ささっと練り消しゴムで紙を擦った。
ぽいっと消しゴムを放り投げると、背中を丸めながらテーブルに載せたスケッチブックに目を落とした。
また深く削った鉛筆を手に取ると、サラサラと鉛筆を走らせてる。
「…そんな日、来るわけ無いだろ」
「ふふ…だよね…」
テーブルに置いてあるマグカップを手にとった。
ずずっとコーヒーを啜ると、智が俺を見上げた。
「ん?」
「…殺していいよ?」
「え?」
「そうだなあ…女と結婚したい、なんて言い出したら…子供が欲しいなんて言い出したら…」
「な、何言ってんのよ…」
「俺のこと、殺していいよ?」
ふふっと笑いながら、俺の方に手を伸ばしてきた。
「だから…そんな日、来るわけないからさ」
「ふふ…なーに自信満々に言っちゃってんのよ…」
「ばーか。愛してるって言ってんだよ」
「知ってる」
手を伸ばして、そのしなやかな手を握った。
「俺も…そんな日が来たら、和也のこと、殺す」
「ばーか…そんな日、来るわけ無いじゃん…」
「そうしてほしいね。俺、和也のこと殺せないもん」
「バカ…弱っちいんだから…」
「そうだよ…俺、弱虫なんだから…」
だから和也…
ずっと、ずっと
俺のこと見捨てないでよね…