第5章 約束
大野智は、病気だった。
ALS…
筋萎縮性側索硬化症。
難病指定されている病気だ。
筋肉が萎縮して、体を動かすのが困難になる病気だ。
知能や知覚には全く問題のないまま、最後には手足も動かず、呼吸も咀嚼もできず…死に至ることもある病気だ。
原因はわかっておらず、治療も困難を極めている。
もしも…
もしも俺がこの病気に罹ったなら…
死にたくなったかもしれない
大野智の通っていた病院に出向いて、診断書を貰ってきた。
担当医に、必要なら出廷して証言してもらう約束も取り付けてきた。
「はあ…まだ、なんかあったっけ…?」
やることが多すぎて、へばった。
弁護の、方針を変えなければいけないかもしれない。
だから新たな証拠集めをしなければならない。
でも、二宮はそれを望んでいなかった。
あくまで、痴情のもつれということで判決を受けたいと。
そう言っていた。
でも、俺は証拠集めに必死になっていた。
「…嘱託殺人…ね…」
あの手帖の後半には、大野智の苦悩が書き込まれていた。
日々動かなくなってくる身体。
いつ、動くことができなくなるかという恐怖。
そして、愛する二宮のこと…
そう。
彼は、浮気なんかしてなかった。
だけど…負けたんだ。
自分の弱い心に
だから、二宮に殺してくれと頼んだんだ