第20章 こちらアラシノ引越センターの…②
遠くで、昼休みの終わりを告げる予鈴が聞こえてる。
キスしてしまった俺達は、そのまま屋上の地面で座り込んで雲一つない青空を見上げてた。
「…翔、あのさ…」
「ん?」
「ごめん」
潤は俺の目をまっすぐに見て、謝ってきた。
「冷静になった?」
「うん…」
「まあ、俺もおちょくったから…ごめん…」
「いやっ…俺が…」
そこまでいって、潤は俺の顔を見て黙り込んだ。
目を逸らすと、三角パックのオレンジジュースを飲んだ。
「それ、俺の…」
「あ…」
気がついて、潤は照れくさそうに笑った。
「こんなとこでもキス…間接的にしちゃったな」
それが、高校生活で最も印象に残った潤の笑顔だった。
◇
その後、俺は都内の大学に進学し、潤は関西のほうの大学に進んだ。
あのときの気まずさからか、潤から連絡が来ることはなかった。
大学を卒業しても、風の便りに潤が関西で就職したという噂を聞くだけで、本人からの連絡はなかった。
俺も、敢えて連絡をしようとはしなかった。
だって、あのときのキスが良かったから──
それを認めてしまうことは、当時の俺には崖から飛び降りるよりも勇気が要ることだった。
そう、あのときの俺には…
ひどく罪深いことのように思えて。
潤とのキスは、胸の奥にしまい込んでしまったんだ。