第5章 約束
「はは…そっかあ…気づいちゃったか…」
ぺろっと舌を出して、二宮は苦笑した。
「で、それがなにか?」
「二宮さん…」
まだ恍けるつもりか。
「…やだな…怒らないでよ…櫻井先生…」
「僕には、包み隠さず言ってくださいと、最初に言いました。その約束を守って貰えなかったんです。怒りますよ、弁護士だって」
「…ごめんなさい…」
「それを…」
少し温度が上がってしまったから、ひとつ息を吐き出した。
「…それを、大野さんに言ってください」
そう言うと、鉛を飲み込んだみたいな顔になった。
「先生…」
少し表情を硬くしたけど、すぐにまた微笑んだ。
「だって…彼がそう望んだから…」
「え…?」
「わかったでしょ…あの手帖を読んだなら…」
俺の後ろ…
ずっと遠くを見ながら、二宮は笑った。
「あの人、苦しいこと大嫌いだったから…だから…」
「だから…自分の手で終わらせたっていうんですか」
「そうだよ」
微笑む二宮の顔が、酷く透明で…
幽霊でも見てるみたいな気分になった。
「でもね…俺は、何一つ。嘘は言ってない」
「え…?」
「あのとき、智が言ったことは…全部本当のことだよ」