第19章 こちらアラシノ引越センターの…①
「コーヒー、飲もうよ。かざまぽん」
「……はい」
マグカップを用意すると、かざまぽんは淹れたてのコーヒーを注いでくれた。
ダイニングテーブルのいつもの席に、それぞれのマグカップを置いて、かざまぽんを座らせた。
「ほら、座って座って」
肩を押して座らせると、かざまぽんは珍しい物を見るような顔をした。
「ん?どうした?」
「いえ…別に…」
「じゃっ。いただきまーす!」
無塩のしかも油でローストしてないミックスナッツは、コーヒーにもよく合う。
よく噛んで食べると、ほのかに甘みまで出てくるもんね。
「カシューナッツがやっぱ最強だな…」
「俺、出ていった方がいい?」
「え?なんで?」
「だって、俺…稲葉さんのこと好きだもん」
「だから?」
「え?」
「なんでそれで出ていくって話になるの?」
まっすぐ、かざまぽんの顔を見たら、目を逸らされてしまった。
暫くの沈黙の後、かざまぽんはコーヒーに口をつけた。
「俺みたいなおじさんの、どこが好きなの?」
「ぶほっ…」
そうストレートに聞いたら、かざまぽんはコーヒーを噴射した。
「ああああっ…もう、コーヒー飲んでる最中になんてこと聞くんですか!?」
「ああ…ああ…なんか、ごめんよ?」
ティッシュで拭いて、服にもついてないか確認して。
被害は最小限で済んだようだった。
でもかざまぽんのダメージは、でかかったようだ。
真っ赤な顔をしたまま、動けなくなっている。