第5章 約束
検察側の言うように、この手帖には女の影はなかった。
それにスマホからも、そんな痕跡は見つかっていない。
「じゃあ…なんであんなこと言ったんだ…?」
どうして、女ができたから別れるって…
首を捻りながら、手帖を読み進めていった。
次の公判の前に、二宮に接見に行った。
「櫻井先生…?」
俺の顔を見るなり、二宮は不思議そうな顔をした。
「どうかしたんですか?」
「なにがです」
「なんか、顔がいつもより険しいです」
「そう…ですか…?」
記録を取るためのノートと筆記具をカバンから出して、台に広げた。
「二宮さん…正直に仰ってください。まだ僕に言っていないことがありますね?」
「え…?なんのことですか?」
本当に不思議そうな顔をして、二宮は俺を見つめた。
「…あの手帖…大野さんの…」
「ああ…」
「あれ…あなたも読んでますね?」
暫く、微笑んだまま二宮は黙った。
「…なんで…わかったんです…?」
「まずあなたは、この前の公判のあとの接見で『あんなの、みんなの前に出されたら、恥ずかしがるだろうな』って言いましたよね…?」
「ええ…」
「あの公判で展示された証拠は、一部だった。ということは、あなたはあの手帖を全部読んでいたということになる」