第19章 こちらアラシノ引越センターの…①
あの頃のクールなかざまぽんはいなくなって、すっかりデレデレの勉強熱心な猫おにいさんになってしまった。
ちょっとおじさん、戸惑っちゃうけど。
でもこっちのかざまぽんのほうが、飾らなくてずっといい。
「稲葉さんて、なんで一人暮らしなんですか?」
どきっとしたけど、かざまぽんが興味本位じゃなく聞いているのがわかったから、正直に答えた。
「猫を愛しすぎて…奥さんに愛想尽かされちゃった」
「…ほお?」
それきり黙ってしまったけど。
きっと自分も将来そうなりそうだって、危機感でも持ったんだと思った。
「さ、ユズちゃん、きぃちゃん。すみれちゃんにご飯食べさせてあげて?」
ユズちゃんときぃちゃんは先住猫で。
ずっと俺と艱難辛苦を共にしてくれてる、勇者たちだ。
奥さんが出て行っちゃったときも、泣いてる俺のそばにぴったりくっついて慰めてくれたっけ…
「いいこだから…すみれちゃんのご飯見守ってね?」
そう言うと、ユズちゃんときぃちゃんは大人しく俺の横でお座り。
それを見たすみれちゃんは、ぴゅ~んと物陰から飛び出してきて、こっちにフーシャー言いながら餌場でご飯を食べ始めた。
「ほら…飛びかかっていかないでしょ?だから大丈夫だよ」
「なるほど…ホントに勉強になる」