第5章 約束
そのあとも、いろいろと手続きで回るところがあって、終わった頃にはもう、だいぶ遅い時間になっていた。
二宮がこだわった黒い手帖のことが気になっていたので、慌てて事務所に戻った。
あんなに楽しそうに恋人の恥ずかしがる姿を想像して笑う二宮の、本当に清々しいような笑みが、忘れられない。
とっくにもう同僚たちは帰ってる時間帯で、事務所はシンとしていた。
自分のデスクにカバンを置くと、すぐにファイルを取り出した。
夜食を食べながら、読み進んでいった。
つい夢中になって読んでしまった。
二宮から聞いていた、大野智という人が浮き彫りになってくるようで。
公判でも見たけれども、実際見る写しは、とても字が綺麗だった。
「写真で見たらそんなふうには見えなかったんだけどなあ…」
ちょっとボケッとした色男が、こんな文字を書くなんて意外だった。
メモには本当に細かい記録もあったし、心情を吐露したようなものもあった。
ただの日記のこともあって、二宮が度々出てきたりして…
本当になんでもこの手帖に書いていたんだなって感じだった。
そりゃあ、他人には見られたくないだろう。
写真でしか見たことのない大野智の照れた顔を想像しながら、心の中で謝っておいた。