第5章 約束
それに二宮は、素直に隠し立てせずなんでも公判で喋った。
検察からの質問にも淀みなく答えたし、弁護人である俺からの質問にも素直に答えた。
その答えにはブレがなく、そして二宮自身が語っていたことと矛盾点もなかった。
なにより、二宮は事件が発覚する前に自首している。
だから量刑は、殺人事件としては軽いものになるだろう。
俺の主張する「当時の異常な興奮状態」を認められて、
殺人罪ではなく傷害致死罪と認められるかもしれない。
それほど、状況は二宮に有利だった。
ただ…
俺には、ずっと二宮が異常に見えていた。
どうして、そんな顔をしていられるんだって…
俺が今まで見てきた殺人事件の被告人は…
激しく後悔してるか、何が悪いと喚き散らすか…
嘘で塗り固めて、なんとか罪を逃れようとしたり。
はたまたイカれているか。
シャブ中ってのも居たな…
とにかく、今まで見てきた客とは、なにかが違った。
穏やかで…泣いた顔は、初めて接見した日以降、見ていないし…
声を荒げることもなければ、取り繕うような嘘もつかない。
ただただ、淡々と日々が流れていくに任せているようだった。
それが、どうしても俺には、理解できなかったんだ。
愛する人を、我が手にかけながら…
どうしてそんな穏やかに微笑んでいられるんだ…?