第5章 約束
「…そうです。愛しています」
ゆっくりとアクリルの壁に顔を近づけてきた。
「だから…櫻井先生…」
「はい…?」
男だと言うのに、綺麗な顔をしていて…
白い頬はなめらかな皮膚に覆われていて、桜色に染まっている。
唇は赤く、艶かしく輝いてみえた。
思わず惹き込まれそうになった。
子犬みたいに濡れている瞳は、赤く…
また泣き出しそうだと思った。
笑っているのに。
「俺を、死刑にしてください」
こんな厄介な客は初めてだった。
最初はイカれているんだと思った。
だから精神鑑定も申し立てた。
正常だという結果で、意味がなかったが。
それから逮捕され、検察による取り調べが進んで、起訴されて公判になって。
世間では、男同士の痴情のもつれということで、少しだけ騒がれたが、それもあっという間に報道もされなくなった。
俺は弁護士だ。
だから、二宮が何を願おうと、依頼人である二宮の両親の願いを無視するわけにはいかなかった。
だいたい、このくらいの事件では、極刑にはならない。
むしろ、裁判員は二宮に同情的なくらいだった。
男だとわかって付き合っておきながら、急に子供が欲しくなって女に産ませることにしたから別れてくれと言われたわけだから。