第5章 約束
「…他に…好きな人ができた…?」
震える手を見て、思ってもない言葉が出た。
そんなはずない
そんなわけない
そうは思うんだけど、出てきてしまった言葉は俺の胸を突き刺した。
俯いたまま、俺を見ようとしない智の頭がコクンとひとつ下げられた。
「…ああ…」
「嘘…」
血の気が引いていくのがわかった。
立っていられなくて、テーブルの横の壁に手をついた。
「嘘でしょ…」
「ごめん…」
口では謝ってるのに、俺の顔を見ようともしない。
そうだ…
最近ずっと、智は俺の顔見なかった
視線も合わさないし、喋ることも少なくなってた
ただ機械みたいに、朝起きて仕事に行って
帰ってきて風呂に入って飯を食って
そして俺の隣で寝るだけ
セックスもキスも、なんにもなかった
もう一緒に暮らして5年になるから…
だからそういう時期もあるかなって。
疲れてるのかなって。
そう思ってた。
まさか、智の心が他に移ってたなんて…
いや…
本当は、わかってた
考えたくなくて。
ずっと、自分の気持ちを無視してた。
「さい…てー…」
「ああ…」
「同意なんか求めてないっ」
テーブルに乗っかってる、空のコップを智に投げつけた。