第5章 約束
「別れてくれないか」
突然、何を言い出すんだか…
「わかった…わかったから…明日、俺の誕生日だよ?どうしてそういう質の悪い冗談言うの…」
少し笑って立ち上がった。
今日は少し蒸し暑かった。
まだ本格的な夏の前だというのに。
仕事から帰ったばかりで、喉がカラカラだったから、キッチンから水でもとってこようと思った。
「待てよ」
顔を見ると、まだ真剣な顔をしてる。
「…なによ…だから、そういう冗談やめてよね」
「冗談じゃないんだ」
「え…?」
一緒に暮らしてるアパートは、中央線の沿線で。
古くて騒音と振動が酷いから、都心で広いのに格安だった。
いずれ、取り壊される運命で、それもあって近辺のアパートの中でも群を抜いて家賃は安かった。
ふたりでここでお金を貯めて、将来は郊外に家でも買おうかなんて夢みたいな話をしながら、ここで智と一緒に暮らし始めたのは…もう5年前になる。
「なんで…?次の更新には新しいアパート借りようねって言ってたじゃん…」
「ごめん…」
「ごめんじゃなくて。理由を聞いてるの」
あまりの衝撃に、座ることも忘れて彼を見下ろしてる。
リビングのテーブルの上に載せられた手は、震えていた。