第5章 約束
「仕事…ね…」
「はい。それに、弁護する人は、今までも色んな人がいました。だから、どうぞお気になさらず」
「ふうん…若いのに優秀なんだ?」
「いえ、そういうわけじゃ…」
ちょっと俺を伺うように上目遣いで見ていたけど、ふうっと息を吐きだしたら、またにっこりと笑った。
「じゃあ、お願いします」
明るい顔…
本当にこの人は、殺人事件なんて起こしたんだろうか。
罪の意識をまるで感じてないように見える。
自分の恋人を、自分の手で縊り殺しているのに、その暗い影はどこにも見えない。
「そうですね…どこから話そうかな…」
腿の上で手を組むと、少し指を開いたり握ったりしている。
「刑事さんにも何回も同じこと話してるから、何を話せばいいかわからなくなっちゃう…」
「では…まず、事件当日のこと、教えてください」
「…はい…」
また薄っすらと笑って、それから二宮は少し遠い目をした。
「金曜日、でした…」
窓もない留置場の接見室をぐるりと見渡すように視線を動かすと、まっすぐに俺を見つめた。
「智から…あ、俺の恋人の、大野智です」
「はい。承知しています」
「ああ…そうだよね。もう調べてきてるよね…」
クスっと笑うと、また遠い目をした。