第5章 約束
男の名前は、大野智。
彼は、二宮の恋人だったそうだ。
痴情のもつれ───
二宮は、そう殺した動機を説明した。
警察の取り調べでは、二宮は素直に動機やら話しているそうだから、この事件はそんなに揉めることなく行くだろう。
だが、二宮の両親は、少しでも減刑をと願っており、俺に弁護を依頼してきた。
「…痴情のもつれと言っても、いろいろあります」
弁護の緒を探そうと、少し踏み込んだ。
「その状況を、説明していただけませんか?」
「…櫻井先生…」
「はい?」
「気持ち悪くないの?」
「は?」
「だって、俺、ホモだよ?こんなのの弁護なんて引き受けて気持ち悪くないの?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる目は、子犬のようだった。
「…人の性癖を云々言えるほど、私は立派な人間じゃないですからね…」
「ええ…?でも弁護士さんでしょ。立派じゃん」
ころころと笑いだした。
「あなたみたいな立派な先生に、俺の弁護してもらうのなんて申し訳ないですよ…」
「…仕事なんで…」
「え?」
「あなたのご両親から、もう手付金も頂いております。これは仕事なんで、僕の好悪なんて関係ありませんよ」
そう言い切ると、二宮は目を丸くした。