第5章 約束
ドアが開いたと思ったら、低い声が聞こえた。
警察官の声だろうか。
何と言っているかは聞き取れない。
やがて、そこから入ってきたのは小柄な男だった。
「どうも。私、弁護士の櫻井と申します」
立ち上がって頭を下げてから、名刺を懐から出した。
眼の前のアクリルの壁に押し付けて、彼によく見えるよう提示した。
部屋の中には、俺とこの男…
被疑者、二宮和也しかいない。
留置場の接見室は、秘密交通権が認められているため、警察官等の立会はない。
「どうも…二宮です」
ぺこりと頭を下げると、彼は椅子に座った。
ギシリと金属の軋む音が響いた。
「あなたのご両親より依頼を受けて、本日からあなたの弁護を担当することになりました。よろしくお願いいたします」
「…よろしく。櫻井先生」
にこりと微笑む。
…本当にこの男が…?
俺も椅子に腰掛けると、シャーペンを握った。
広げてあるノートに手を置くと、彼の顔を再度見つめた。
「では…お話を聞かせてください…包み隠さず。いいですね?」
「はい」
事件は、一週間前に起こった。
二宮が最寄りの警察署に自首して、事件は発覚した。
彼の自白で、警察が現場に急行すると、見つかったのは男の絞殺死体だった。