第18章 こちら、アラシノ引越センター!
筋肉軍団たちは、姦しい。
意外と女子よりも、姦しい。
私は密かに「社内女子高生」と呼んでいる。
そのくらい、若い作業員さんたちはキャピキャピとしている。
静かだった事務所が少しずつ騒がしくなる。
その間にも見積もりの電話を受付け、その内容を専用フォームに打ち込んでいると、次々と午前の作業の終わった「野太い声の社内女子高生」たちが帰ってくる。
午後の現場に行く前に、普通は現地で休憩を取るのだが、支社に近い場所で作業を終えた場合は、社に戻ってくる。
作業員さんの休憩室で昼食を摂ったり、することがなかったらゴミコンテナの整理をしたり資材の補充をしたり。
引っ越し以外にもすることはたくさんあるのだ。
「あれ…班長は?戻ってきてんだろ?」
「あ、はい…あれ?さっきまで居たのに」
北島さんが配車表を見ながら、首を傾げてる。
作業員さんたちはキョロキョロしてるけど、誰も班長の西川さんの行方を知らなかった。
「またうんこじゃないっすかー?」
「ちょ、消臭力、要るぅ?」
班長とは、作業員さんのなかで一番偉い人のことで。
人の回転の早い業界だから、班長と呼ばれる人の勤続年数は、支社長よりも長い人もいる。
だからどの支社も、班長の権威は結構高い。
何を隠そう、ウチの西川班長がその長いひとで、東京西支社長より数年ほど先輩だということだ。
実は事務所の人は現場上がりの人が多くて。
腰を痛めたり、膝を痛めたりして作業員としてだめになっちゃったひとが、そのまま事務員にスライドすることもある。
ウチの支社長もそうやって、事務員になった人だということだ。
見積もりをしてくるスーツ族の営業さんは、他社転職組も多いし…業界の中をぐるぐる転職して回ってる、回遊魚みたいな人が多い…かな。
…嫌になったらすぐ飛ぶ(急に辞める)から。
だから事務所の中は、スーツ着用だけど体育会系のノリではある(私を除き)。