第17章 上総介の場合
「な、なんだと…嘘を言うな!この…」
思わず握った拳を振り上げたら、いきなり突風が目の前を横切った。
「!?」
思わず後ろに飛び下がってしまった。
「あっぶねーなあ…」
声が天井から降ってくる。
見上げると、天井に渡る太い梁の上に居るではないか。
「なんと…!一瞬でそこまで飛び上がったか!」
無門は頭を覆っていた頭巾を外すと、ぼりぼりと頭を掻いた。
梁に座り込むとぶらんと足を投げ出し、こちらを見下ろした。
「嘘じゃねえよ。もうおっかねえなぁ…」
「おっかないのは、こっちだ!」
「へえ?なんでさ?」
「うるさい!獣のような跳躍を見せよって!」
「獣…?ふ…ふはは…ははは…」
「な、何を笑っておる」
「忍びなんて獣と同じだって、水野の殿サンも言ってたなあ…」
「今日ばっかりはアイツと気が合うなあ!この野郎!」
無性に苛ついて、今度は小刀の鞘を投げつけてやった。
無門は、ため息をひとつ吐き出した。
かと思ったら、音もなく梁から降りてきた。
「俺たちは餓鬼の頃からこんな訓練ばっかりやってたんだ。できて当たり前だろうが。なんなら殿サンの家来に教えてやろうか?」
「いらぬわ!そんな術!」