第17章 上総介の場合
「へーえ…武田の殿サンは仲間の村のモン使ってるのになあ…」
「……」
コイツ、どこまで俺を嬲る。
そんな情報はとっくに俺の耳に届いている。
武田が忍びを使って情報を集めているというのは、明白だった。
これから今川領を切り取るために、たくさんの忍びを放っているはずだ。
どこの忍びを使っているのかわからなかったが…伊賀の国人だったか。
「…伊賀の国なぞ、この俺が焼き払ってやるわ」
「は?」
「俺は、忍びなぞ大嫌いだ」
「怖いんだろ?」
「……なんだと?」
「俺らを毛嫌いするお大名は、俺らのことが怖いんだ」
なんでもないことのように無門は吐き捨てた。
立ち上がると、スタスタと小屋の戸の方に歩き出した。
「おい!」
口を真一文字に引き結び、絶対なにも答えてやるかって顔をして無門は振り返った。
「二度と俺の前に顔を見せるな」
黙ったまま頷くと、戸を開け出ていった。
「……なんと恐ろしいことよ」
将来の禍根になりそうなものは、尽く焼き尽くさねばならない。
今夜、伊賀もその候補に入った。
「焼き尽くしてやる…」
たとえこの身が天魔になっても。
【上総介の場合・終】