第17章 上総介の場合
今日は、水野とその妹の於大(白兎の母だ)が三河の岡崎に俺の白兎に会いに行くというから、市とふたりでこっそり従者に変装してついてきた。
家老のじいに死ぬほど留められたが、そんなことを聞く俺ではない。
確かに大名自ら、忍びの者のように変装してまで他国にいくことなぞ、考えられない。
最後には泣かれたが、腹でも切られたら困るから、信康の顔を見たらちゃんとすぐ帰ってくると約束はしてやった。
約束は約束だ。
守るか破るかは俺の自由だ←
……俺の白兎がどう成長したかひと目、見たかった。
市がついてくるといって聞かなかったのが計算外だったが。
青い顔をした水野はこの伊賀者の無門とやらに俺と市の身辺警護をさせている。
俺は嫌いだが、伊賀者は忍びとして一流の腕を持つというからな。
まだ俺の白兎が俺の軍門に降るかはわからない。(まあ、断っても降るようにするまでだが)
警護なぞいらぬと断ったのだが、三河者は頑固だから身分が露見すれば何を仕出かすかわからないと水野は聞かない。
じゃあ同じ三河者なのに家督を継いですぐ、戦うこと無く俺の父上に降った水野、お前はなんなのだ。腰抜けめ。
自分の身など市も俺も守れると言うに。
迷惑な話だ。