第16章 BOY【O side】EP.9
あれは、2年前…いや、もう3年になるのか…?
西島と藤ヶ谷に連れられて来た潤は…
酷い状態だった。
酷いって一言で済まないくらいの傷を、心と体に負っていた。
あの日、藤ヶ谷から雅紀に「見つけた」と連絡が入って。
車で連れてくるって言うから、その時やってた撮影を中止して、慌ててうちに帰ってきたんだ。
7月の暑い日だった。
「まだかな…」
「まあ、もうちょっとで着くだろ…」
居ても立っても居られなくて、雅紀とふたりでマンションのエントランスで外をみて待ってた。
和也には部屋で待機させてた。
顔が真っ青だったから、ぶっ倒れるかと思って。
ミーティングスペースで雅紀と座ってると、顔見知りのフロントの姉ちゃんがコーヒーを差し入れてくれた。
「はいよ。飲め」
「ああ。ありがとう。那子子」
那子子は大柄で動作も大胆なんだが、今日はなんだかおとなしい。
俺たちの顔を見て、そっと体を折り曲げて、小さな声で聞いてきた。
「どなたかお待ちか?」
「ああ、いや…」
この姉ちゃんは『那子子(なずず)』と呼ばれている中国人だ。あだ名らしい。
日本語はちょっとおかしいが三ヶ国語くらい喋れるらしい。それに仕事はできるし口も堅い。
「ちょっとね…昔の友だち…」
「コレか」
ぴっと小指を立てた。