第15章 BOY【M side】EP.8
それから俺は、綺麗に死ぬために…
その薬を手に入れるために、この男の言うまま客をとって稼いでる。
…もっとも…
その稼ぎは、男のシャブ代に大半が消えていってるけど。
殴られるから、その傷が治るまでは…
男がシャブが切れて暴れるから、部屋を片付けてから…
楽に死ねる薬が手に入るまでは…
そう思って、ずるずると死ぬ時間を引き伸ばしてる。
惰性ってこういうことなんだなって。
最近すごく実感してる。
その日は、あんまりにも顔の傷が酷くて。
客は一人しか引っかからなかった。
路上で1万じゃ高いって、5000円投げつけられて終わった。
とうとう俺は5000円の価値まで落ちた。
「やっす…」
そのまま朝までやってる店で飲み食いして、5000円はあっという間に消えた。
あいつに金がないとまた殴られるから、漫画喫茶で時間を潰して、バイトに出てる昼間にアパートに戻った。
鍵を開けて中に入ると、誰かいる気配がする。
しまったと思ったけど、畳敷きの居間から出てきたのはスーツにロングコートを羽織った男。
ぎょろりとした目に、薄い眉毛。
なんかカエルみたいに愛嬌のある顔にみえるのに、目が…怖かった。
「…誰…?」
しらない男は俺のこと、上から下まで眺めて。
それから部屋の奥に視線を向けた。
敷きっぱなしになってる布団の上に、あいつが正座してた。