第14章 BOY【A side】EP.7
「チッ…」
珍しく、智は機嫌が悪い。
書き損じたのか、乱暴にスケッチブックに消しゴムをかけてる。
そりゃ…去年、ニノちゃんを恋人にするんだって、あんな嬉しそうにしてたの、初めて見たし…
多分…松本くんに嫉妬してるんだ。
でも言えないよね。
あんな酷い作品に出て、魂抜かれたみたいな顔して写ってたから…
騙されて借金背負わされたか、弱み握られたか…
あのゲイビを作ってる会社は、筋がよくない。
使えなくなったら、内臓取られて捨てられるって噂を聞いた。
日本人の若くて活きの良い内臓は、高く売れるし。
とにかく、彼は自ら進んであの仕事をやってるわけじゃない嵌められたんだっていうのは、一目瞭然だったからね。
持っていきようのない感情を、俺の前だけで出すんだ。
「ふふ…」
「なんだよ。何笑ってんだよ」
「智ったら、かわいいじゃん」
「…うっせー…」
声が小さくなって。俯いちゃった。
ますますかわいい。
こんな智も初めて見る。
そう…こう見えて、智は今まで「普通の恋愛」をしたことがなかった。
普通じゃないのなら…いっぱいあったけど…
でも、たった一度だけ。
智の中で忘れられない人…そういう人が居たのは、知ってる。
俺と一緒で、添い遂げることなんてできなかったけどね。
今まで俺が、その代わりっていうか…なんとなくそうなってたけど。
俺と智は、なんつーかもう…家族。
そう、家族みたいなもんだったから、そういうんじゃなかったんだよね。