第12章 BOY【M side】EP.5
9月はまだ暑くて。
二宮の居ない教室はいつも通りなのに、俺だけがいつも通りじゃない。
何をしても楽しくないし、気が晴れない。
せっかくバイトして貯めたお金は、使われないまま。
「おまえ、なんかあったの…?」
仲のいい友達が、遠慮がちに尋ねてくる。
「え?なにが?」
「…もしかして、ひと夏の経験しちゃった?」
「は?」
「なんか、すげえ大人になったよな。松本」
教室の机一個挟んだ向こう側から俺を眺める友。
変わらない風景なのに、なぜか遠く感じた。
「…別に…バイトしてたら終わっちゃったよ…夏なんて…」
一学期まで、俺の周りはうるさいほどだったのに。
なぜだか、一緒に騒ぐ気にもならないで。
二宮がこないことをいいことに、勝手に俺は休み時間は二宮の席に座ってる。
教室から外を眺めてると、誰も話しかけてこなくていい。
そうやって惰性で日常を送って一ヶ月。
「ここ、俺の席なんだけど」
9月の終わりになって、やっと二宮が学校に来た。
「…二宮…」
「あ?なんだよ。荷物取るの。ちょっとどいて?」
どいてやると、机の荷物を全部出してでかいカバンに詰め込んだ。
「なにやってんだよ…?」
「え?俺ね、休学するの。じゃあね」