第11章 BOY【S side】EP.4
エレベーターに乗り込むと、ロビーのざわめきが一瞬消えた。
代わりにクラッシックのBGMが穏やかに、箱の中を満たしてる。
「翔…こっち向いて…?」
顔を松本さんのほうに向けると、唇が近づいてきた。
「あ…」
誰も一緒に乗ってないけど、こんなとこでキスを求められたのは初めてだった。
「ふ…かわいい…真っ赤になって…」
「だって…こんなとこで、キス…」
「大丈夫…誰も見てない…」
だって…監視カメラ…
そう思ったけど、松本さんの赤い唇が近づいてきたら、抵抗できなかった。
見た目以上に、柔らかくて肉厚な唇が俺の頬にくっついた。
「え…?」
「ココ…は、部屋までとっておこう」
俺の唇に人差し指を当てると、ふふっと微笑んだ。
誂われてるのかな…
でも、不思議と怒りは湧いてこなくて。
それどころか、今ここで…貪るようなキスが欲しいと思った。
松本さんの肩に頭をつけると、そっと肩を引き寄せてくれた。
「ほんとに…今日、君と一緒に居られるなんて…嬉しいよ…」
俺も…嬉しい。
金で買われてるってわかってる。
わかってるけど…
こんなに優しく俺のこと見てくれる人、初めてだ。
胸の奥が、暖かい。