第8章 遠別
やがてストーブの暖かさが満ちてくると、起き出して。
「今日、仕事辞めてくる」
朝食を作っている最中、君はそんな事を言う。
「…辞めて、どうする…?」
昨日の問いの答えは、まだ聞いてなかった。
君は出しっぱなしにしていた水を止めると、こちらを振り返った。
「…一緒に…居たい…」
その目は、静かで。
何かを決意した目で。
「…わかった…」
立ち上がって、君を抱きしめた。
「俺も、仕事辞めてくる…」
「うん…」
少しでも、長く…
君と一緒に…
出勤してすぐに、辞意を伝える。
だいぶ引き止められたけど、押し切ってきた。
職場のデスクもロッカーも整理して、帰ってきた。
もう陽は落ちて、辺りは暗い。
短い間だったけど、通った道。
積もった雪を踏みしめながら、帰路についた。
家につくと、すでに明かりが灯ってて。
鍵を開けてドアを開けると、君はもう夕飯の準備をしてた。
「おかえり!」
玄関に入ると、君は嬉しそうに飛び出してきて。
「ただいま」
笑いながら返事をすると…くしゃりと笑って。
「今日はシチューだよ」
「やった」
いつもどおりの穏やかな時間。
暖かな時間。