第8章 遠別
ふたりで、ラジオから流れる「愛の夢」を聴いた。
とても静かで、とても暖かく。
そして、腕の中の愛おしい君。
しあわせな時間…
「あのときは…」
君が俺の腕の中で身じろぎした。
俺を見上げると、くしゃっと笑って。
「ん…?」
「こんな時間、来るとは思わなかったね…」
「ああ…そうだね…」
「こんなに穏やかで、こんなに静かで…」
「うん…」
「…俺、しあわせだよ…」
「俺も」
その笑った顔が愛おしくて。
頬に手を添えて、額にキスを落とした。
「とても…今が、生きていて一番しあわせだよ」
嬉しそうに笑う君は、身を乗り出して俺の頬にキスをくれた。
なにもない…一日。
こうやって、君と二人。
なにもない部屋で抱き合って。
きれいな音楽を聞きながら、他愛もない話をして。
キスをして、キスをされて。
少しだけ身体に触れ合って。
穏やかな…そしてしあわせに溢れた時間。
夕方、夕飯の材料を買いに君が外へ出ていった。
その間、だいぶ動けるようになった俺は、風呂掃除をして。
乾燥機にぶち込んでた洗濯物を取り出して。
リビングで畳みながら、君の帰りを待った。
帰ってきた君は、手に何も持っていなくて。
その時が来たのを知った。