第8章 遠別
ほてほてに茹だったころに、君は戻ってきた。
ニット帽を被って、ダウンを着込んでる。
風呂の戸をちょっと開けて、俺の様子を見てる。
「…どうしてでてこないの?」
「俺が立てないの、忘れた?」
「ほあっ?!」
バンっと戸が閉まったと思ったら、すぐに素っ裸の君が戻ってきた。
「ごめんっ!忘れてた!」
「もう…いいから、ちょっと温まりなよ…」
君は浴槽に勢いよく入ってきた。
その体を引き寄せると、やっぱり冷たい。
「ほら…冷えちゃってるじゃん…」
「だって。満タンにしてもらったんだもん…時間掛かっちゃって…」
「今度でよかったのに…」
「だって灯油なくなったら、死ぬじゃん?」
「確かに」
この町の冬は厳しい。
北海道の北の日本海側にある小さな町。
極寒の地で、俺達には縁もゆかりもない土地だ。
生まれ育った土地でもなく…
引っ越してきたのも、最近だ。
慣れてないから、灯油がなくなれば、一晩で死ねる自信はある。
くるりと身体の向きを変えると、君はゆっくりと俺に抱きついてきた。
「あったかいねえ…」
「うん…あったかいねえ…」
温かいのは、お湯のせいじゃない。
君と、こうして居られるからだ…