第1章 仄暗い奈落の底から -sequel -
女性は、美穂探偵事務所の探偵さんだ。
「事情があって、私のことは”由美”とだけ、お呼びください」
店の奥にある事務所内に招き入れると、女性は智にも名刺を渡した。
「はあ…」
「この連絡先は、私へ直通になっておりますので、なにかありましたら、どうぞ」
名刺には携帯番号が印刷されていた。
あと、メールアドレスも。
「…本来なら、ご依頼いただくときは事務所に来ていただくのですが…」
「すいません…どうにも休めないもので…でも、急ぐんです」
「ええ…それぞれご事情がお有りですから…しかし、今回は所長が都合がつかなくて…申し訳ありません」
「いえ…」
「もしもご依頼いただけたら、メインの調査は私がすることになると思います」
「そう…なんですか?」
「実は以前、このあたりで勤務していたもので」
「へえ…」
にこにことする”由美”さんは、ジャケットの肩からショルダーバッグを椅子に降ろした。
その中から、ボイスレコーダーとメモを取り出してスタンバイした。
「…それでは、お話をお伺いします…」
ごくりとつばを飲み込んで、智の顔を見た。
眠そうな顔を作ってるけど、目の奥は真剣だ。
…多分、これがわかるのは、俺だけ…
俺と、智は…恋人同士だから