第1章 仄暗い奈落の底から -sequel -
「じゃあね!和おじちゃん!」
「こら!お兄さんだろ!気をつけて帰れよ!」
「はあい!」
夜8時───
いつも最後まで居残ってる子供がやっと店を出た。
11月の寒い風が、子供の開けたガラス戸の隙間から吹き込んできて思わず身震いをする。
ここは俺の経営するゲームショップ。
大学を卒業後、ばあさんの代からやってたおもちゃ屋を改装して、俺が店主に収まった。
新装開店して数年。
こんな小さな店でも、結構繁盛してる。
今じゃ、こんな遅くまで近所のガキのたまり場だ。
「参った参った…託児所じゃねえんだぞ、ここは…」
店の入り口まで行って、店の前の通りを覗くとちゃんと親が迎えに来てて一安心する。
「智、終わったよ」
「…ん?ああ…」
店の片隅で、いつもどおり居眠りしてた智が目を開けた。
「ごめんね…おまたせ…」
ふと通りを見るとスーツを着た女性が一人、佇んでた。
「…来たみたいだよ…?」
「ん?ああ…」
くっとあくびを噛み殺すと、智は立ち上がった。
「…裏の…事務所のほうがいいだろ…」
「うん…」
俺はガラス戸を開くと、通りに立っていた女性に目配せした。
女性は会釈するとこちらに歩いてきた。
「…二宮さんですね…?」
「はい…」
微笑むと、名刺を差し出してきた。
「美穂探偵事務所です」
サラリとワンレングスのボブヘアを掻き上げた。