第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
ふたりきりになって、ジュンフィスはふふっと笑ってる。
「あ…あの…ジュンフィス…」
「ん?」
「あの…なんか…知ってる…の?」
恐る恐る聞いてみたら、ジュンフィスもニヤリと笑った。
「あの者を…影武者にするのだそうだ…」
「は?」
「あの者を仕込んでヒッタイトの第一王子の影武者にして…サクミルはこちらに戻ってくるらしいぞ」
「え…?」
な、何を言ってるんだか…よくわかりませんが。
「ということで…シャトシ…」
「え…はい…」
「サクミルが戻ったら、3人で楽しんで暮らそうな!」
「えっ…ええええええええええええ!?」
ちょ、ちょっとまって…
それって…
「サクミルは、第二妃でいいそうだから…帰ったらまた儀式をせねばな!」
すんごく楽しそうに、ジュンフィスは未来の計画を喋りだした。
「サクミル王子も…奥さんにするの…?」
「…なんだ気に入らぬのか?」
いや…気に入らないも何も…
王だから…そりゃ、側室がいて当たり前だけど…
でも…
でもさあ…
「安心しろ!」
「へ…?」
「俺の正妃は、シャトシ…おまえだけだからなっ…!」
ものすごーく、無邪気な笑顔で…
嬉しそうに俺のこと、抱きしめた。
もお…古代のひと、思考が野性的過ぎて…
俺…もうよくわからない…
「シャトシ」
「ん…?」
「愛してるぞ」
また、にっこり笑った顔が、本当に子供みたいで…
無邪気
「あー…もう…」
「ん?」
「…なんでもない…」
俺がいつまで経っても、愛してるの返事をしないから…
ちょっと口をとがらせて、不機嫌になってる。
「もお…わかったよぉ…」
もう、敵わないや…
俺、ジュンフィスに惚れちゃってるんだもん。
「ジュンフィス…だーいすきっ…!」
ジュンフィスは偉大な王
民の言うことをよく聞き
よい政治をした
太陽神ラーとナイルの女神の恵みを
一身に受け
偉大な王としてエジプトを統治した
王妃シャトシもここに眠る
シャトシは一度
ナイルに戻ったが
また偉大なるエジプトに帰った
ラーの子とナイルの娘は
互いを愛し
そして死ぬときも一緒だった
ふたりはここに眠る
永遠に 眠っている
【大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~ END】