第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
この壁の向こうに、ジュンフィスの棺がある。
そう思うと、胸がいっぱいになった。
涙は次から次へと溢れてきて。
ヒエログリフの壁に両手をつけて、ひたすらあのしあわせだった時を思い出した。
「あ…」
手でヒエログリフを撫でる。
「ナイルの…女神…?」
これって…
「…もしかして、俺のこと…?ジュンフィス…」
壁の向こうに語りかけるようにいうと、コロンと小さな石片が落ちてきた。
まるで不貞腐れたジュンフィスが、返事をしたようだった。
「ふ…ふふ…」
ジュンフィス…俺のこと、忘れないでいてくれたんだ…
「そっかあ…」
そのままヒエログリフを撫でると、ジュンフィスの温もりが鮮やかに思い出された。
「偉大な…王…」
その続きを読もうと、身をかがめた。
「え…?」
王妃シャトシもここに眠る
「俺!?」
俺、ここに眠ってるの…?
作業用の手袋を外して、そのヒエログリフをもう一度撫でた。
指先が熱い。
どうして…?
どういうこと…?
その時、後ろから物音が聞こえた。
「おーい!大野!生きてるか!?生きてるならなんか合図しろっ!」
土砂の向こうから、くぐもった櫻井教授の声が聞こえた。
でも俺は、夢中になってヒエログリフを読んだ。
また、コロンと石片が落ちてくる。
シャトシは一度
ナイルに戻ったが
また偉大なるエジプトに帰った
「帰った…?どうやって…?」
「おーい!大野ぉー!無事だったら合図しろー!」
ああ…うるさい…ちょっと黙っててくれよ!教授!
またコロンと石片が転がってきた。
だんだん、その数は増えてきた。
「え…?」
ボロボロと天井から、砂と小石が落ちてくる。
「わ…ぁっ…」
地鳴りのような轟音が響く。
横穴の天井が崩壊してきた。
”シャトシっ…”
強く
大きな手が俺の腕を掴んだ