第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
慎重に、砂壁の縦穴を降りていく。
底に着いたら、いくつかある横穴のうち、俺が進めていた穴に入る。
「大野センセ…」
「ん…」
「やっぱ、無理しないで下さいよ」
「大丈夫だよ…」
そう笑ってみたけど…
少し、無理はしてる。
古代に居た間、栄養のある食事を十分には摂ってないから、多少体力が落ちていた。
少し立っているとふらつく。
でもそんなこと関係なく…
「ここを、掘らなきゃいけないんだ」
そう言うと、黙って松本は道具を出してくれた。
もう少し大きい現場だったら、現地の人を雇って大掛かりにするんだけど。
この現場は狭い上に、あまりいい感触じゃなかった。
だから研究室の人間だけでちょっとずつ掘っていた。
それでも…俺が居ない数ヶ月の間、横穴はだいぶ掘り進められていた。
「松本、頑張ったんだね」
そう言うと、少し嬉しそうに笑う。
「大野准教授が戻ってきたら、びっくりさせようぜって、相葉先生と言ってたんです」
「そっか…」
あれは、夢だったのかもしれない。
でも、俺が着ていた服は、後で見せてもらったら、あの婚儀のときのもので…
古代に戻る方法がわからない以上、ここを掘らないと…
ジュンフィスに会えない。
だから…
どうか、ジュンフィス…
長い眠りを破ってしまうのを、許してね…?