第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
ナイルのワニが、ワンピースの裾を噛んでいる。
「ええええっ…わ、ワニっ…」
「シャトシ!」
ジュンフィスが力任せに俺の腕を引っ張るけど、それ以上の力で引っ張られてて、石畳の縁から落ちそうになってる。
「いやあああっ…ジュンフィスっ…」
「シャトシっ…掴まれっ…」
ザッパーンと凄い水音がしたかと思ったら、ナイルのワニが立ち上がった。
「えっ…ええっ!?」
そこに居たのは…ワニの革を被ったニノシスだった。
「ニノシスっ…」
「ええっ…!?姉上!?」
ジュンフィスが驚いて身を乗り出した瞬間、足首を掴まれた。
「もう許さない…」
ぼそっと呟くのが聞こえたかと思うと、俺はナイル川に引きずり込まれた。
「ごぼおおおおおおおっっ…」
水の中は真っ暗で。
ニノシスが暴れたから濁っていて、全然見えない。
足首を掴まれてるのを、必死で蹴ってみてるけどもスカスカ水の中を蹴るだけだった。
水が沢山口の中に入ってきて。
もう息が苦しい。
どうしようもなく藻掻いてみたけど、足首を強い力で掴まれていて、水面に上がることもできない。
頭の上から、声が聞こえる──
シャトシっ…!
ジュンフィス…こないで…