第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
あたりは真っ暗で。
でも月は、煌々と辺りを照らしている。
ナイルの水面にも月が出てた。
「…もうちょっと…」
少しだけ…二人きりになりたくて、ちょっと嘘をついた。
ぎゅっと抱きしめてくれた腕を掴むと、ジュンフィスはくすっと笑った。
「そうか…ならば仕方ないな…」
そっと俺の横に座ると、肩を抱き寄せてくれた。
「…ジュンフィス、疲れた?」
「いいや…」
「そっか…」
話すこともなく、ただふたりでナイルを眺めた。
静かに、夜が過ぎていく。
「…シャトシ…」
「ん…?」
「俺の側を離れるでないぞ…?」
「…うん…」
「どこにも…いくな…」
「…いかないよ…」
見上げたジュンフィスの目が潤んでて。
月明かりがキラキラと反射した涙が、ぽろりとこぼれた。
ジュンフィスの手が俺の手を握って。
そのままジュンフィスの胸に触れた。
ドクンドクン…
心臓の鼓動を、指先に感じる。
「シャトシ…」
「ジュンフィス…」
ジュンフィスの顔が近づいてきた。
目を閉じると、熱い唇が触れた。
「んっ…」
その瞬間、ワンピースの裾を引っ張られた。
「な…なに!?」
ナイル川の方に、ズルズルと引きずられていく。