第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
女官がわらわらと入ってきて、どんどん俺に衣装を着付けていく。
豪華な装飾品は、エジプトの博物館や本でみたことのあるデザインで。
王妃しか身につけることのできないものだ。
あのギザや王家の谷で見つかったものと同じだ。
それを俺が、身につけるなんて…
この一ヶ月…本当は悩んだんだ。
だって、俺、男だし。
本当は神の娘とかじゃないし。
でもさ…
ジュンフィスが可愛いんだ。
子供みたいにキラキラした顔で、いろんなこと話すんだ。
婚儀が済んだら、国中を回ろうって。
王妃を見せびらかすんだって。
こんなに美しい王妃なんだぞって。
それからエジプト中の美味しいもの食べさせてやるってさ…
なんかもうさ…
その顔を見てたら、いいかな…って…
現代の俺、捨ててもいいかなって。
そう、思ったんだ。
儀式の行われる神殿まで、マサスが先導してくれる。
「それでは、行きましょうか…」
ダーオカは、部屋でぐしゃぐしゃに泣きながら見送ってくれた。
なんか花嫁の父の気分なのかなあ…
その顔をみて、ちょっと緊張がほぐれた。
外はもう暗くなっていて、廊下には明かりが灯されていた。
神殿に着くまでは、口をきいてはいけないということで、静かに歩を進めた。