第1章 仄暗い奈落の底から -sequel -
ガラス戸にクローズの札を下げて、閉店の準備に取り掛かった。
「あのさ…ニノ…」
「うん?」
入り口のカーテンを閉めて振り返ったら、雅紀はカウンターに肘を付きながら、壁を見つめてた。
「どしたの?」
「ん…あのさ、翔ちゃん…なんだけど…」
無表情でそこまで言うと、言葉を切った。
ゆっくりと俺の顔を見ると、雅紀は立ち上がった。
「ど、どうしたの…?」
ひとつ、息を吐き出すと俺の方に歩いてきた。
「会った?正月」
「え…うん…智の家に遊びに来てくれた…」
「そっか…」
いつも陽気な笑顔を浮かべてる雅紀の、真剣な表情。
あんまりないことだったから、言葉が出てこなかった。
「…欲しい…?」
「……え……?」
肩に手を掛けられたと思ったら、痛いくらい力を入れられた。
「翔ちゃんが、欲しいかって聞いてんだよ」
「雅紀…?」
怖いくらい、真っ直ぐに目を見つめられた。
「お前、翔ちゃんのことも好きなんだろ?」
「えっ…」
「智も…そうなんだろ?」
「な、何言って…」
「誤魔化すなよ」
逃げようとした俺の腕を、雅紀は握って離さない。
「このままだと…お前たち、永遠に翔ちゃんを失うことになるよ…?」