第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
「いや…不味くはないんだけどね…びっくりした」
「だって、ナイルの娘を探していたら、ばったりとこの王宮の廊下で出くわしたんですよね…俺、エブラに居るとき王子様を見たことがあったから、びっくりして…」
ニコニコと人の良さそうな顔で笑っている。
多分、悪気はないんだろうけども…
「嬉しくなっちゃって、こんなすごいお方がいるんですよって、お話しちゃったんですよ!」
なーんか…あの王子の笑みが…怪しいんだよなあ…
一体あれはなんだったんだろう。
ダーオカは、エジプトで大掛かりな工事があるので、出稼ぎに来ているという。
あのおばあさんは、血縁じゃないらしい。
ただの下宿先のばあさんだそうだ。
「ダーオカ…」
「はいぃ?」
「これからは気軽に俺のこと、外で話さないでね?」
「え?なんでですか…?」
「俺、別に神様じゃないから」
怪訝な顔をして、ダーオカは寝そべる俺に近づいてきた。
「あのお…さっきから気になってたんですけど…」
「なに?」
あれから数日経っていて、頬の腫れはほぼ引いてきた。
ジュンフィスには一度も会っていない。
サクミル王子にも、ニノシスにも…
ちょっと豪華な部屋を充てがわれて、外に出ることはできなかった。
身の回りのことは、女官たちがやってくれて。
話し相手に、昼間の時間だけ、ダーオカが部屋に入ることは許された。
…この時代のこと、調べたいとは思うけども。
なかなかこの部屋から出してもらえないで、暇ぶっこいていた。
ナイル川の眺められる部屋は、ゆったりとした寝台とカウチみたいなベンチのある豪華な部屋だ。
ナイル沿いの壁は大きく出入り口が取ってあって、そのすぐ外で兵士が見張っているから、外に出ることなんかできなかった。