第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
ゆっくりと俺に顔を近づけてくると、俺の唇の切れてるとこをベロリと舐めた。
ピリッと染みたような痛みが走る。
「痛っ…」
「すまないっ…痛いか…?」
「す、すこふぃ…」
口の中まで腫れ上がってきて、もう喋りたくない。
「シャトシを寝台に寝かせてくれ…」
「…でも、ジュンフィス…」
「そして、サクミル…姉上の話し、聞かせてくれるか…?」
「え…?」
「話を聞きながら、シャトシの治療をするから」
そう言うと、出口まで行って、ドア代わりの布を捲くりあげると、女官になにか言いつけてる。
サクミル王子は、俺と目を見合わせると、苦笑いした。
「…まあ横暴なやつなんだけどさ…ああいう素直なとこが憎めないんだよな…」
うん…なんか、わかる気がする…
子供みたいで…信じたものは疑わない純真さがあるんだよな…
「して…シャトシ…」
ん?と顔を上げると、サクミル王子は真面目な顔をしていた。
「…ナイルの川の娘とは、本当なのか…?」
ええっ…!?
「本当に、ナイルの神なのか…?」
どうして…どうしてそれを知ってるんだ…?
だって、サクミル王子は外国人で…
ジュンフィスならまだしも。
俺のこと、なんで知ってるの…?
ニヤリと、サクミル王子は笑った。