第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
「ナイルの娘よっ!」
いきなりバサッと入り口の布が大きく開いた。
ぬうっと大男が入ってきた。
「うわぁぁぁっ…マツーオカ将軍!」
「遠慮するとは…なんと!なんと…」
なんだか知らないけど、すっごい泣いてる。
「そうですよお!将軍!ナイルの娘は、本当に神の娘だ!」
マサスも号泣してる。
一体何なんだ!
「ぜひ…この服を着てください…」
床にひれ伏して、俺に服を差し出してくるから参った…
「わ…わかったから…顔を上げてください…」
そう言って、服を受け取ると、ますます二人は泣き出した。
「なんとお優しいのだ…」
「そおですよお…あの暴君とはちがう…」
「本当に神の娘なんだな~…マサス~!」
「マツーオカ将軍~…!」
とうとう抱き合って泣き出した。
「な…なんなんだ…」
ふたりは泣くだけ泣くと、もう一度俺にひれ伏してから部屋を出ていった。
「朝になったら、都に着きますから…それまでどうぞごゆっくり眠ってください…」
「都って…?」
「イネブ・ヘジです」
ああ…やっぱり…
ひとりになって、豪華な刺繍の入った服を着た。
女物だったけど…
「ああ…疲れた…」
ぼふっともふもふの布団に倒れ込んだ。
イネブ・ヘジとは…
今は、メンフィスと言われている。
後の世につけられた名前だ。
現代エジプトだと、もう誰も住んでいない。
遺跡しかないんだ。
「ここ、古王国時代だ…」