第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
バタバタと船の上が一気に騒がしくなった。
甲板にひれ伏して震えているもの、俺にひれ伏して震えているもの。
みんな手のひらをこちらに向けて、口々に何かをブツブツ唱えてる。
「申し訳もございません!ナイルの川の神よっ…」
兵士の一人が、俺の体を縛っている縄を解いた。
「ち、違うよ!あれはただの月食!」
「は…?」
「凶事の前触れなんかじゃないから!ただ、月に地球の影が写ってるだけだから!」
「な…なにを仰っているんだ…神は…」
兵士は俺から手を離すと、ダーオカの顔を見た。
「は、早く俺の縄も…」
「あ、ああ…」
呆然としているマサスを尻目に、俺たちは自由の身になった。
「ありがとうございました!ナイルの川の神よ!」
「ちょっともう…だから誤解なのに…」
でも、縄が食い込んで痛かったから助かった…
「美しい…神よ…」
ダーオカが俺に向かってひれ伏した。
「だーっ!やめてよっ!俺は神なんかじゃないっ!」
「じゃあ、ナイルの神の産んだ娘だ!」
「ええっ…なんでそうなるの!?」
「ナイルの娘よ…我々をどうかお守りください…!」
どうやら、月食がよっぽど恐ろしいものみたく、俺のことを伏し拝んでやめない。
「だからああ…ただの月食なんだってばー!」