第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
慌てて戻ろうとしたら、ナイルの下流の水面に灯りが見えた。
まるでイカ釣りの漁船みたいに、集団になってる。
「え…?なんだろ…」
川幅が広くて、向こう岸も見えないくらいだから、ナイルの流れは非常に緩やかで。
どうやらその灯りは、ナイルを登ってきているようだ。
煌々と灯りを点しているから、軍船かなにかなんだろうか?
俺の考古学魂がうずっとした。
「もうちょっと…よく見たい…」
どんな装飾をしているかで、王朝もわかるかもしれない。
まだ遠くに見える船をよく見ようと、月明かりを頼りに川岸を歩いた。
葦に似た背の高い草が邪魔をして、水際に近づくことができない。
「もうちょっとよく見える場所…」
キョロキョロしていると、足元の泥が動いた。
「ん?」
下を見たけど、暗いからよくわからない。
ちょっと足元の泥を、サンダルで確かめてみたらちょっと硬かった。
「ラッキー!これなら…」
そう思って、その硬い部分に足を乗せてみた。
「おお…これなら歩け…」
る、と思った瞬間、その泥が大きく動いた。
バシャーンと大きな水音を立てて、その泥は俺を振り落とした。
「えっ…えええええええええ!」
泥だと思っていたのは、大きなナイルワニの背中だった。