第7章 大野の紋章~考古学者大野智の憂鬱~
「デンワとは…なんだ…?」
サラサラと、ナイルの水音を聞いている。
夜になって、灯火もない。
怖いくらいの闇は、発掘作業に来て慣れていたから、外に出た。
幸い、月明かりがあった。
日が落ちると皆、寝てしまう。
いつまで経っても眠れない俺は、ついフラフラとナイルの川岸まで歩いた。
「嘘だろお……」
どうやら、ここは現代ではない。
多分、ダーオカやおばあさんの服装、日干しレンガの家の形状からすると、古代エジプトで間違いないだろう。
残念ながら、王朝まではまだわからないが…
ダーオカによくよく話を聞いたら、なにを作ってるのかわからないが、工事に従事しているとのことだった。
固く焼きしめたパンが配られるし、きちんと給金も出ているという。
休暇だってあるし、体調が悪ければ届け出て休みを取ることもできるという。
ますます、古代エジプトのピラミッドとか墳墓の建造現場としか思えない…
あのあと、ダーオカが俺を騙そうとしてると思って、外に飛び出した。
しかし探せども、遠くの空にはビルもホテルも見えない。
高い建物が一つもないのだ。
町並みを抜けると、緑が生い茂った肥沃な大地に、所々、農地が広がっているのをただ呆然と眺めることしかできなかった。